兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

2022年6月4日、阪神・淡路大震災10000日にあたって

2022年6月4日 阪神・淡路大震災10,000日
“復興災害”を克服し、被災者の最後の一人まで救済を
出口 俊一

あの日 1995年1月17日から27年138日=10,000日

 2022年6月4日、あの日・1995年1月17日から10,000日。
被災地10市・10町は、面的には兵庫県全土(8,365.99㎢)の約20%(5分の1)にあたる1,655.92㎢であるが、当時の全人口(5,432,998人)の約64%(5分の3強)にあたる3,479,065人が被災者となり、甚大な被害をもたらした。

主な被害状況は、下記の通り。

兵庫県内の被害状況等(平成18年5月19日確定)
出所:「阪神・淡路大震災の復旧・復興の状況について」(兵庫県、平成31年1月)
※(2)~(6)最後尾の[ ]内の数値は他府県を含む阪神・淡路大震災全体の数値を表す。

(1) 災害救助法の適用 旧10 市10 町
神戸・尼崎・明石・西宮・洲本・芦屋・伊丹・宝塚・三木・川西の10市、津名・淡路・北淡・一宮・五色・東浦・緑・西淡・三原・南淡の10町。10町は現在、淡路市南あわじ市の2市に。

(2) 死者数 6,402人[6,434人]
※ H7年1~6月の死者に係る死因では窒息・圧死が77.0%、年齢別では65歳以上が43.7%を占める(厚生省調べ)。

(3) 行方不明 3人[3人]

(4) 負傷者数 40,092人[43,792人]

(5) 住家被害 538,767 棟[639,686 棟]
うち、全壊 104,004 棟(182,751 世帯)、半壊 136,952 棟(256,857世帯)

(6) 焼損棟数 7,534棟[7,574棟]
うち、全焼 7,035棟、半焼 89棟

(7) 避難者数(ピ-ク時:H7.1.23) 316,678 人、1,153 箇所
※ 応急仮設住宅が全て完成したことに伴い、平成7年8月20 日をもって災害救助法による避難所の設置運営を終了

 

“復興災害”の克服を

 27年余り(10,000日)も経てば、生活・住宅再建ができた被災者は多数にのぼるであろう。しかし、当初予想もしなかった事態が大震災の被災地ではいまもなお続き、被災者を苦しめている。

 この12年、兵庫県震災復興研究センターなどが問題点を調査・研究し、解決に向けて取り組み、警鐘を鳴らしてきた「借上公営住宅」からの強制退去問題である。

 本来、住民の生命・財産を守り、福祉の増進を図らなければならい地方自治体(神戸市、西宮市)が、復興公営住宅市営住宅)の入居者である被災者を裁判に訴えて、市営住宅からの退去を迫ってきた。そしてこの間、神戸地裁、大阪高裁、最高裁も入居者の訴えを退けている。
神戸市営住宅の「借上」転居予定者は2022年1月1日現在、400世帯。その内、半数以上(249世帯)は、継続入居可能。残りの151世帯は、まだ「20年」になっていない。
裁判所は、神戸地裁、大阪高裁、最高裁何れも「住居の明け渡し、損害金の支払い」を命じ、入居者にとって厳しい結果となった。地裁、高裁の裁判をすべて傍聴してきたが、改めて「裁判所は何のためにあるのか」と思わざるを得なかった。

 住まいの問題だけでなく、まちづくり(新長田駅南地区復興再開発)の問題、とりわけ、神戸市や神戸市の第三セクターである新長田まちづくり(株)が惹き起こした「高い管理費、高い固定資産税、多額の借金」の三重苦からの解決をめざしている商業権利者の苦闘もなお継続中である。
ほかにも、被災者が借り入れた「災害援護資金」の返済もなお、解決に向けた途上にある。

 何れも地方自治体や国による誤っているか、それとも不十分な政策によって惹き起こされた“復興災害”である。

 一義的には、地方自治体が本来の役割に立ち戻り、誤った政策の是正を図ることである。同時に、“復興災害”に見舞われた当事者と支援者による一層の知恵と力の結集によって、事態の前進的打開を図っていかなければならない。“復興災害”は、人間とその組織がつくり出したものである。人々と社会の力によって一日も早く、解決しなければならない。市民力も問われているのである。

 あの日から10,000日経つ被災地の“復興災害”の解決に向けてより一層の力を注いでいきたい。“被災者の最後の一人まで救済を”すすめていかなければならない。

 

【参考文献】
下記の書籍に詳述されていますので、参考にしていただければ幸いです。

○塩崎賢明・西川榮一・出口俊一編『大震災20年と復興災害』(クリエイツかもがわ、2015年1月17日)

○市川英恵『「被災者のニーズ」と「居住の権利」-借上復興住宅・問題』(クリエイツかもがわ、2017年3月17日)

○市川英恵『住むこと 生きること 追い出すこと-9人に聞く借上復興住宅』(クリエイツかもがわ、2019年1月17日)

○出口俊一『震災復興研究序説-復興の人権思想と実際』(クリエイツかもがわ、2019年7月17日)

広原盛明・松本 誠・出口俊一編『負の遺産を 持続可能な資産へ』(クリエイツかもがわ、2022年2月17日)
 
(でぐち としかず、兵庫県震災復興研究センター事務局長)