兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

能登半島地震被災者の生活・住宅再建の支援策についての緊急9項目提案

2007年3月29日

兵庫県震災復興研究センター

 3月25日午前9時42分頃、石川県能登半島を中心に大地震が襲いました。輪島市内の女性1人が亡くなられ、住宅に大きな被害が発生しています。被災地と被災者のみなさま方に心からお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧・復興を願う次第です。阪神・淡路大震災の被災地でも早速、救援活動が開始されています。12年前の阪神・淡路大震災以来、調査・研究、政策提言を積み重ねてきました兵庫県震災復興研究センターも緊急に、復旧・復興の方向につき国と被災自治体に対し下記の通り9項目の提案をします。

1.二次被災を防ぎ、安全で安心できる避難生活のために

 学校の体育館や公民館などでの避難生活が始まりました。余震が続き、3月28日現在、依然1600人を超す被災者が避難を余儀なくされています。大きな不安を抱えた中での困難な避難生活が続くと、体調を崩す被災者が増えることが予測され、万全の避難対策が求められます。厚生労働省は3月25日、「避難生活が必要となった高齢者、障害者等の要援護者については、旅館、ホテル等の避難所としての活用や緊急的措置として社会福祉施設への受入を行って差し支えない旨を石川県及び金沢市に通知」しましたが、28日現在、輪島市内の避難所で体調不安を訴えたり、体調が悪化し緊急入院せざるを得なくなった被災者が出ています。先の「通知」の内容を至急現場に徹底し、安全で安心できる避難所に直ちに移れるようにするとともに、緊急医療体制を国と被災自治体の責任で整えることが必要です。

2.応急支援には災害救助法の徹底活用を

 特に災害救助法第23条の次の各号を徹底活用することです。

(1)「6.災害にかかった住宅の応急修理」

 「居室、炊事場及び便所等日常生活に必要最小限度の部分に対し、現物をもって行うものと・・(中略)・・すること」(大臣告示)としていますが、緊急を要する事態に「現物支給」では非常に不便で、実態に即していません。「現金支給」に切り替えるべきであり、これまでも51万9000円支給され、新潟県中越大震災の被災地では豪雪地帯ゆえ60万円に増額されています。今回の場合も現場の実態に即して、迅速な対応が求められます。

(2)「7.生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与」

 現行法にこの規定があるにもかかわらず、「災害弔慰金の支給等に関する法律」制定を根拠に、現在「給与」は実施されていません。このような脱法的行為は改め、規定を活用して、「生業に必要な資金の支給」を図ることこそが国の責務です。

3.仮設住宅の建設にあたっては、阪神・淡路大震災の苦い教訓、効果的だった鳥取県西部地震新潟県中越大震の教訓を生かし、柔軟な対応を

(1)

 阪神・淡路大震災(1995年1月)では、仮設住宅にかかる国のルールに頑なに従い、被災者のコミュニティなどと関係なく、公共団体の所有地や借り上げ地に限定して建てられ、そして5年後解体されました。建設・解体費用に300万円+100万円=400万円程度かかりました。自宅敷地内で再建しようとする被災者にこの費用400万円を給付しておれば被災者の生活再建にはずっと効果的だったでしょう。国行政から見ても?住宅のストックが残り、?人口減が食い止められ、?税金の効果的使用にもつながったのです。

(2)

 新潟県中越大震災(2004年10月)では、新潟県は「自宅敷地内に避難所として仮設住宅を認める」とともに「仮設住宅を希望しない」被災者に対して最高200万円の独自の住宅再建支援策を実行しました。この支援策は、被災後1週間経った2004年10月30日に発表されました。時期を逸することなくいち早くメッセージを発した点は大変評価されます。ただ、金額が不足したことと被害の程度(全壊、半壊、一部損壊)により支給額に差を設けた点が課題として残りました。

(3)

 鳥取県西部地震(2000年10月)では、鳥取県は300万円の住宅再建支援策を打ち出し、「地元で住宅再建する被災者に一律的に支援すること」を原則に実施しました。この時の教訓を是非とも生かすべきです。

4.災害廃棄物の処理・処分に十分な支援を

 損壊を受けた住居、家具家財などの片づけ、大量に発生する災害廃棄物の処理・処分は、被災者と被災自治体の大きな負担になります。特に、家電やパソコン・自動車等リサイクル対象物に関しては、リサイクル処理費用がかかり、これらはほとんどが自治体負担になっています。2次災害、健康障害や環境破壊を防ぐためにも、災害廃棄物の処理・処分は応急支援の重要項目と位置づけ、国が十分な支援を行う必要があります。

5.迅速性を優先した応急対応と弾力的運用を

 応急対応は、迅速性が極めて重要です。遅れれば遅れるほど被災者の疲労は増し、不安・心配が募ります。鳥取県西部地震に際しての県の住宅支援策は地震後11日目に片山善博知事の決断で発表されました。この迅速な対応が被災者の不安を大きく軽減したと言われています。迅速で的確な応急支援は被災者の心のケアにつながります。

 公平性を理由に、災害の種類、被害の程度、年収・年齢等の要件に拘りすぎると、支援対象を狭くし、かつ施策の実施が遅れる等の問題を発生させます。救済が真に必要な被災者に迅速に支援することを最優先すべきです。

 鳥取県西部地震新潟県中越大震災における支援策を特例とせず、さらに充実させて弾力的運用を図ることが必要です。

 首相をはじめと厚生労働相や関係閣僚、被災地の知事は「被災者の窮状を救う」ことを第一の目的として、救援・復旧・復興施策を迅速に実施すべきです。

6.被災者生活再建支援法の再改正を急ぐ

 本法の2回目の見直し作業がこの3月上旬から開始されましたが、2008年を待たずに直ちに再改正を行うべきです。本年3月19日、兵庫県芦屋市議会も再改正を求める「意見書」を可決しています。再改正すべき主な検討事項は次の通りです。

(1)生活再建支援制度

  ?支給対象災害・世帯を一層拡大すること。
  ?支給条件を緩和すること[収入・年齢制限の撤廃など簡略化する]。
  ?限度額100万円を、当面350万円に増額すること。

(2)居住安定支援制度

  ?周辺経費だけではなく、住宅本体の建築・補修費を対象にすること。
  ?限度額200万円を、当面500万円に増額すること。
  ?「災害に係る住宅の被害認定基準」を生活の基盤である住宅再建に資するものに改めること。特に、浸水被害認定基準を実態に即して抜本的に改めること。

7.「災害援護資金」は貸付でなく給付に改めるなど、「災害弔慰金の支給等に関する法律」の改善・充実を急ぐ

 規定されている「災害援護資金の貸付け」(第10条) は、「給付」に改めることです。当面、法定されている年3%の利子ー限度額350万円の場合、約30万円となるーは止めるべきです。少なくとも、被災者生活再建支援法による生活再建支援金を350万円に増額するか、この利子の廃止のいずれかは実現すべきです。

8.国・自治体は「被災者の窮状を救う」という使命を認識して責務の遂行を

 以上、国のなすべき責務は重大ですが、被災自治体は、国待ちではなく、何よりも「被災者の窮状を救う」という使命を認識し、先導的に被災者支援策を実行することが切望されます。2006年現在、国の制度に対する支援金額の上乗せ、あるいは支援対象を広げる横出し、さらには独自の支援策を実施した自治体は延べ29都道府県、2市、2町に及びます。国の制度では不十分であることの証左でもあります。政府は「私有財産=自己責任」論に拘泥することなく、日本国憲法に基づき、被災者が人間らしく生きていく権利(人権)を保障していかなければなりません。

9.災害復興制度の充実・整備を早急に

 地震が活動期に入ったとされ、一方温暖化に起因する気候変動によって風水雪害や干ばつ・熱波寒波災害、生物災害なども増加しています。わが国では災害復興法制が未整備なため現行の被災者支援策は継ぎはぎだらけです。この際、日本国憲法の関連条項を基軸にした災害復興法制の体系的整備と抜本的な内容充実を図ることが緊急の課題となってきました。

以 上

[連絡先]
 ■兵庫県震災復興研究センター■
   代表理事 塩崎賢明(神戸大学工学部教授)
   代表理事 西川榮一(神戸商船大学名誉教授)
   事務局長 出口俊一(阪南大学非常勤講師)
    650-0027
    神戸市中央区中町通3-1-16、サンビル201号
     電 話 078-371-4593
   ファクス  078-371-5985
     Eメール  td02-hrq@kh.rim.or.jp