兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

阪神・淡路大震災14年にあたっての提案/『災害復興制度』の全体像を考える−その必要性と内容−(骨子)

2009年1月16日
兵庫県震災復興研究センターの出口俊一(事務局長)です。

以下は、「阪神・淡路大震災14年にあたっての提案/『災害復興制度』の全体像を考える−その必要性と内容−(骨子)」です。国民的な議論を巻き起こしていきたいと考えています。
その素材です。ご意見・ご感想をいただければ幸いに存じます。

 

阪神・淡路大震災14年にあたっての提案
「災害復興制度」の全体像を考える−その必要性と内容−(骨子)
                         出口俊一

 阪神・淡路大震災(大震災)から10年経とうとしてい2005年頃から「災害復興制度」を確立する必要性が語られ始め、以来4年が経った。今年はこの間の議論をまとめ、政策・制度要求を国民的に議論していく素材を提案していくことが求められているのではないだろうか。
 以下は、兵庫県震災復興研究センターと日本災害復興学会復興法制度研究会との合同研究会などでの昨年までの協議を踏まえ、大震災14年の時点に立っての提案の骨子である。

必要性と現行法
1.被災者生活・住宅再建支援制度の「上乗せ」「横出し」は、30都道府県2市2町まで広がっている
 (出口俊一「生活・住宅再建の政策形成プロセス」に詳述.『大震災10年と災害列島』2005年1月、兵庫県震災復興研究センター編所収)
・2000年10月: 1県(鳥取県
・2004年11月: 8府県     1町
・2007年 4月:30都道府県2市2町

2.被災者生活再建支援法の2回目の改正(2007年11月)によって、被災者支援策は大きく前進した。年齢・収入要件撤廃の前進面を本法の中にだけ止めておかないで、災害復興制度全体に広げていく必要がある。被害の種別や被災世帯数による適用除外、金額の据え置きなどがあり課題の解決は先送りされた。3回目の改正は、2007年から4年後の見直し(2011年)に基づくものとなる。
しかし、本法は、「オールマイティー」(A衆議院議員の2007年10月末時点の発言)の法律ではない。従って、3回目の改正に向けて、本法の改正に止めず、総合的・全面的な「災害復興制度」(案)を被災者・国民の側から提案して、その実現に向けた各種とりくみの気運を醸成していく必要がある。

3.被災者・国民や国・自治体にとって、継ぎ接ぎだらけではなく、わかりやすく使い勝手のいい復興施策の明示を法制度の中で整理しておくことが必要である。現在、行政府や立法府でこの問題を検討しているということは、寡聞にして聞かない。
○災害対策関係法律(『平成20年版 防災白書』平成20年8月、内閣府)56本+7本(『防災白書』の記述では抜けている律)=63本
○『災害時・被災者支援業務の手引き(案)』(平成17年3月、内閣府/社会安全研究所)
○『被災者支援に関する各種制度の概要』(平成20年1月、内閣府)※時折、更新される.
○『世界と日本の災害復興ガイド』(2009年1月、兵庫県震災復興研究センター等編)に「資料現行の被災者支援策一覧」が掲載された.

4.この問題を研究してきた、あるいはしようとしている民間の団体・個人は、次の通りである。これらの団体・個人が単独または協同して研究の推進を図り、早期にまとめることが必要である。
兵庫県弁護士会+日本弁護士連合会
○弁護士(福崎博孝、伊賀興一、戎 正晴、永井幸寿、津久井進氏等)
阪神・淡路まちづくり支援機構、同附属研究会
兵庫県震災研究センター(1995年1月〜)
神戸大学COE・安全と共生のデザイン戦略(2003年春〜2008年3月)
関西学院大学災害復興制度研究所(2005年1月〜)、同WG会議(2007年5月〜10月)
○日本災害復興学会(2008年1月〜)、同復興法制度研究会(2008年4月〜)
○その他
 
構 成
1.「災害復興制度」とは、下記の(1)〜(5)の各種制度の総称とする。なお、「(1)災害復興憲章」「(5)災害復興支援交付金特別措置法」は仮称である。

2.災害対策基本法(1961年11月、内閣府消防庁)の抜本改正も同時に検討する。「災害対策基本法の中に『災害復興制度』を位置づけたらいいのではないか。従って『災害復興基本法』は必要がない」という意見がある。ここでは、現行の災害対策基本法体系と新・「災害復興基本法」体系の2本立てでいけばいいのではないかという立場で、構成を検討する。

(1)災害復興憲章(前文+本文)→津久井進(弁護士)案が、すでに提起されている。
 ■理念法については、この「災害復興憲章」を基本にして「災害復興基本法」としてはどうか。

(2)実定法
■下記の�〜�をまとめて「被災者総合支援法」→山崎栄一(大分大学准教授)案がすでに提案されており、被災者支援策を一本の法律の中で可視化できるいい面があるが、第一段階として�〜�の3法を中心に見直し→改正(再編・統合)するとともに、�〜�の法律も必要に応じて改正するという考え方ですすめる。第二段階として、全体を1本の法律にという「被災者総合支援法」の制定作業にとりかかるる。以上の二段階ですすめてはどうか。

 ■同時に、厚生労働省による「災害救助事務取扱要領」(同省作成のマニュアル)などを通じての脱法的運用を改めるとともに、現行法の徹底活用も図る。

�災害救助法(厚生省→厚生労働省、1947年10月、62年経過)の単独改正.
  ○避難所・・・・・・・・・・・・・最近の「福祉避難所」などは本法に位置づける.
○応急仮設住宅・・・・・・・400万円程度(建設費+解体・撤去費).民有地にも建設可能にする.
○住宅の応急修理・・・・・半壊又は半焼の住家に現在、50万円以内.�との調整を図る.
   ○生業資金の給与・・・・・・弔慰金法の制定を口実に、適用を棚上げ.不作為の違法行為を糺す.
   ○その他・・・・・・・・・・・・・・今後の議論で総合的に整理する.

■�と�を統合する。�の年齢、収入要件撤廃が実現したので、支給対象(半壊世帯、1世帯以上)や支給金額を改正しなければならない。所管は、内閣府とする。

�災害弔慰金の支給等に関する法律(厚生省→厚生労働省議員立法〕、1973年9月、36年経過)の改正
   ○災害援護資金・・・・・・・限度額350万円の貸付(利子3%、5年据置で10年償還)→利子3%を撤廃する。
   ○見舞金・・・・・・・・・・・・・500万円(世帯主の死亡見舞金)、250万円→維持する。

�被災者生活再建支援法(国土庁内閣府議員立法〕、1998年5月、11年経過)の改正
○生活再建支援金・・・・・100万円(1998年5月)
○居住安定支援制度・・・ 200万円(2004年3月)
○住宅再建に「見舞金」・・300万円(2007年11月)

■�〜�も必要に応じて改正する。
公営住宅法建設省国土交通省、1951年7月)
   ○公営住宅・・・・・・・・・・・・2700万円(兵庫県発表の建設費)
  �労働基準法労働省厚生労働省、1947年4月)
  �雇用保険法労働省厚生労働省、1974年12月)
  �生活保護法(厚生省→厚生労働省、1950年5月)
  �社会福祉事業法(厚生省→厚生労働省、1951年3月)

(3)被災市街地復興特別措置法(建設省国土交通省、1995年2月、14年経過)→現行法
 ■下記は、関連する法律。本法の改正の課題についても、同時に検討する。
  �建築基準法建設省国土交通省、1950年5月)
�都市区画整理法(建設省国土交通省、1954年5月)
  �都市計画法建設省国土交通省、1968年6月)
  �都市再開発法建設省国土交通省、1969年6月)

(4)罹災都市借地借家臨時処理法(法務省、1946年8月、63年経過)→現行法
 ■本法は、第2次世界大戦直後に制定された法律である。本法の改正の課題についても、同時に検討する。
■現在、日弁連にて検討中。

(5)災害復興支援交付金特別措置法→豊田利久(広島修道大学教授)案などが、すでに提起されている。
 ■財源問題に絞る。
 ■従来、ややもすれば「財源がないとか、財源をどうするか、財政が破綻する」などの意見が「官」だけではなく「民」からも出され、それが全体のブレーキ役を担っていたようだ。最近は、「霞ヶ関埋蔵金」などの特別会計に注目が集まり、また「2兆円の定額給付金」の財源のことなどもあり、財源問題で「思考停止」状態になることは克服できるのではないか。

�.実現に向けて
1. この問題を研究してきた民間の団体・個人が、単独または協同して研究の推進を図り、2009年12月末頃までに案をまとめる。

2.まとめられた案をもとに、被災者生活再建支援法の見直し作業(2010年〜11年)が開始されるまでに国民的な合意形成と世論形成に努める(2009年〜10年)。

3.団体・個人が横並びでとりくむことを基本に、被災者、関係団体、国会議員、関係省庁の大臣・官僚、各自治体の首長・議員、マスコミ関係者のみなさん方に提案する(2009年〜10年)。

(でぐち としかず、兵庫県震災復興研究センター事務局長)

【連絡先】
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650-0027
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電 話:078-371-4593
ファクス:078-371-5985
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