兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

大震災100の教訓

大震災100の教訓

編著者:塩崎賢明・西川榮一・出口俊一
  兵庫県震災復興研究センター
出版社:クリエイツかもがわ
定価:2,310円(本体価格2,200円)
判型:A5判、254ページ
ISBN-13: 978-4876997121
2002年10月刊

大震災―明日はわが身・わが地域に起きても不思議ではない。いざというときに役立つ「阪神・淡路大震災の教訓」決定版。防災から危機管理、復興のあり方から市民生活まで、総合的に明らかにする。

紹介して頂きました

防災や復興、市民の立場で検証 『大震災100の教訓』出版」(2002.11.9朝日新聞
『大震災100の教訓』出版 被害と復興を多角的に検証」(2002.10.29神戸新聞
『大震災100の教訓』」(2002.11.9毎日放送「ネットワーク117」)
脱ダム、県政改革語る 震災研『大震災の教訓』出版記念講演会に650人」(2002.9.29兵庫民報)
田中・長野県知事が神戸で講演」(2002.9.23神戸新聞
『神戸空港は無駄』長野・田中知事」(2002.9.23産経新聞
『福祉、教育、環境に税金を』田中・長野県知事」(2002.9.23毎日新聞
大震災、神戸空港、脱ダム、田中・長野知事が講演」(2002.9.23赤旗

目次

はしがき

 

  • 激甚災害―被害の概要と特徴
  • 地盤と地震被害
  • 地震の研究と防災
  • 危機管理は万全だったか
  • 人間の復興とは何か
  • 交通・輸送の被害と復興
  • 環境・廃棄物
  • 情報
  • 避難所・仮設・住宅復興
  • 都市計画・まちづくり
  • 安全・安心の住宅づくり
  • 憲法上、個人補償はできる
  • 財政問題と「復興基金」事業
  • 一八〇〇億円の義援金配分は  なぜ遅れたのか
  • 病院・診療所、高齢者、障害者
  • 子ども・教育
  • 文化・芸術
  • 産業・雇用、金融
  • 地震と企業
  • 被災者(支援)運動、ボランティア

あとがき

すいせん

長野県知事 田中康夫
鳥取県知事 片山善博

あとがき

 本書を編むこととなったきっかけは単純である。六四三二人の犠牲者をだした大震災は二〇世紀末の日本をおそった未曾有の大災害であったが、そこから何を学び、後世に生かしていくかが重い課題として残されている。この震災に関する報告書や書物はすでに膨大な量に達するが、震災の教訓という点では、それほどしっかりと書かれたものを知らない。それどころか、その種の書物の扉には、「阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて」という言葉が、かならずと言ってもいいほど語られているにもかかわらず、中身をみれば、それに該当する具体的な教訓の記述は見当たらないことが多い。「震災の教訓」という言葉がいわば枕詞のように使われているのである。もちろん個別的な問題に関する出版物は多く、そこには、大震災で何が問題であったのかが論じられている。しかし、震災の犠牲のなかから、何を汲み取り、何を記憶に止めなければならないのか、そのトータルな像を描いたものがほとんどない。ひとたび大地震がくれば犠牲者となりかねない多くの一般市民からみて、大震災でおきた事柄、教訓として知っておかねばならない事柄を簡潔にとりまとめたものが必要ではないか、それが本書出版の動機である。

 もちろん、震災から七年を経ていまさら教訓をまとめるといったところで、類書がたくさんあるではないかといった反論もあり、当初は取り組みが危ぶまれた。しかし、しばらくするうちに、同じ思いを抱く人が意外に多いことがわかってきた。言われてみれば、大震災の教訓といってもそれを何項目かにまとめて列挙できるというわけではない。どの本をみれば、そういうことがきちんと書いてあるのかもわからない。被災地でもそうなのである。体験を通じて個人的にはそれなりに肝に銘じておくことはわかっているし、子や孫に伝えておきたいこともある。しかし、それらは体系的ではなく、ごく身の回りで経験し、見聞きした事柄に止まる。震災当時はっきり覚えていたことも、時間が経つにつれて記憶が薄れていくことも多い。結局、被災者自身、震災の教訓をしっかりまとめておくことさえできずに今日まで時間が経過しているのである。

 本来こうしたことは、市民の公僕である行政の仕事である。しかし、行政も日々の仕事に忙しいのか、はたまた、ほかの原因からか、公式の文書において大震災の教訓を何項目かに整理して市民・国民に提供したということを聞いたことがない。大部の記録誌や公式文書が刊行され、ほとんど例外なく、「阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて」という書き出しで始まるのではあるが……。ましてや、行政の責任者が、他府県で「阪神・淡路大震災の最大の教訓は、自分の命は自分で守ることだ」ともっともらしく述べているのを聞くに及んで、これは被災者の思いとかけ離れている、被災地から発信すべきことの重要性をいまさらながら強く思い知らされるのである。

 震災はそれが発生した場所と時によって、現れ方はさまざまである。大震災の経験はその意味で、ひとつの事例であり、次にきたるべき災害の様相と同じではない。しかし、学びうることは決して少なくはない。事実、その後に起こった台湾の地震鳥取県西部地震では、大震災の経験から学んで重要な施策が行われている。

 とはいえ、本書は震災の教訓を細大漏らさず網羅しているわけではない。扱っている項目には、復興過程で生じた問題が多い。これは七年あまりの歳月のなかで次第にはっきりしてきた事柄であると同時に、被災者個人ではなかなか認識しにくい事柄である。震災では、個々人で対処しなければならないことが多いが、同時に社会的に対処すべき問題も多い。地震は自然現象であるが、震災や復興は社会現象なのであり、被害を最小限に止め、速やかで人間的な復旧・復興を成し遂げるには、国や自治体の果たすべき役割はきわめて大きいのである。そして、往々にして一般市民は、その種のことはどこかでお偉方がうまくやってくれているはずだと思いがちである。しかし、実際はそうではなく、市民自らが、個人でやるべきことと同時に、社会システムとして取り組むべきことの双方に心を砕かなければ、震災には対処できない。気づいた時は、そういう仕組みになっていると言われて身動きが取れない。そのなかでもがき苦しむことが多いのである。消防や救急・救命、避難所、仮設住宅、復興住宅、義援金、見舞金、住宅再建等々、復旧・復興の大半は個人的努力をこえた社会システムの問題といってよい。この点で、忘れられてはならないことをできる限り拾い上げることに留意した。

 今後数十年のあいだにいくつかの巨大地震が予想されており、それへの備えが急がれている。個々人がなすべき事柄と同時に、社会のシステムとして、震災への備えや復旧・復興の問題を考える素材として、本書が役立つことを願うものである。

 最後に、本書の出版にあたっては、クリエイツかもがわの田島英二氏、えでぃっとはうすOGNの小國文男氏に大変お世話になった。この場を借りてお礼を申し上げる次第である。

2002年8月17日
塩崎賢明