兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

大震災と人間復興

大震災と人間復興

編者:兵庫県震災復興研究センター
出版社:青木書店
定価:2,110円(本体価格2,000円)
判型:A5判、272ページ
ISBN-13: 978-4250960413
1996年10月刊

被災から2年近くたった神戸から、未だ復旧からはほど遠い現状をレポート。経済大国の内実を告発し、更に住民が地域に戻り生活を再建できる、真に生活者のための復興政策を提示する。

紹介して頂きました

断層を見つめて 対談 高村薫 野田正彰」(2005.1.18神戸新聞

目次

はしがき

序章 激甚災害被害の概要と特徴 (西川榮一)

第一部 被災地の現状と復興の課題

第1章 被災地・仮設住宅の暮らし (角屋洋光)
第2章 被災者の立ち直りと住まいの再建 (浅野弥二一)
第3章 復興まちづくりと地域主体 (浅野弥二一)

土地区画整理事業地区でのまちづくり事例

第4章 大震災の教訓と復興まちづくりの課題 (塩崎賢明)
第5章 自営業者たちの再建への道程

(1)神戸ハイテク・パークを歩く (藤原忠毅)
(2)地域密者型小売業者の奮闘記 (鳴田雄二)
(3)建設業者による住宅復興 復興建設センター(FKC)の取り組み (勝部志郎)

第6章 被災地の労働と雇用 (中谷武)
第7章 住民本位の震災復興とはなにか (菊本義治)

第二部 被災地でいまなにが問われているか

第8章 大震災の自然的・社会灼な特徴防災・安全面から考える (西川榮一)
第9章 復旧・復興の遅れと神戸市型都市経営

(1)復旧格差と立ち遅れのメカニズム (北野正一)
(2)神戸市財政の破綻と再建 (池田清)

第10章 生活再建と公的保障 (菊本義治)

終章 生活再建を求めて 復興運動小史 (出口俊一)

あとがき

<資料編>

資料1 被害の概要
資料2 義援金状況
資料3 提言と政策
食料4 参考文献

はしがき

 ほんの一瞬であった。大きな縦揺れが横揺れに変わり、そして家財が飛び散り家屋が崩壊し、認定されているだけでも6300人が犠牲になった。犠牲はまぬかれたものの肉親や知人を失った人々、負傷した人々、目の前で血と汗の結晶ともいうべき財産を失った人々など、多くの人々が言葉ではいい表すことのできない恐ろしさと悲しさを体験させられた。

 あれから一年半以上がたった。表通りや人目につく場所ではかなり復旧が進んだ。幹線道路や鉄道や港の大型コンテナヤード等は驚くほどのスピードで復旧が完了した。震災以前の水準に、否それ以上に売上げと利益を伸ばした大企業がある。店舗の倒壊や、まちに人が少なく営業に四苦八苦している小売店をしり目に大型店がドンドン入ってきている。

 阪神・淡路の大震災はテレビやマスコミ報道から次第に消えかかっている。「もう終わった、復旧した」と思われがちである。しかし、全然終わっていない。自殺者や孤独死は後をたたない。栄養失調で亡くなった人もいる。明日の生活に展望がなく、生きる気力を失いかけている人がたくさんいる。苦しみをアルコールで紛らす人、少し揺れると恐怖キ浄にする子どもたち、震災の後遺症はまだくっきりと残っている。このようなことが、世界有数の経済大国であってよいことだろうか。

 私たちは、大震災の悲劇は阪神や淡路といった一地域に特有な出来事ではないと思っている。自然災害はいつやってくるかわからない。技術を過信してはいけない。自然はおしはかれない力をもっている。防災に最善を尽くすべきであるが、大事なことは、いったん災害が起きたときにどのように生活を再建できるかである。

 個人の力は限られていること、政治は冷たいということをいやというほど知らされた。私たちはなんのために税金を支払っているのか、思いもよらない災害が発生したときに支援してもらうためではないのだろうか、これが被災者の正直な思いである。

 震災からの生活再建は並大抵のことではない。政府や地方自治体の公的支援が不可欠である。災害から人間らしい暮らしをとりもどしたい、安全に安心して暮らしたい、私たちの悲しい経験を二度と繰り返してはいけない、憲法で保障された生活権・生存権を確固としたものにしたい、生活再建への公的保障を認めてもらうことが尊い犠牲者への哀悼ではないか、公的災害保障制度をつくりたい、このような思いで本書を出版した。

 本書が、いまなお生活の立て直しに懸命になっている被災者、そして安全に安心して暮らすことを願っている方々に、いくらかでもお役に立てばと願っている。被災者救援のために努力していただいたボランティアの方々、ありがたい義援金をいただき励ましてくださった方々に、少しでもお返しができれば幸いである。

1996年8月17日