兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

「神戸市営住宅条例施行細則」の一部改正に対する意見を神戸市に提出

「神戸市営住宅条例施行細則」の一部改正に対する意見を22日午後、神戸市に提出しました。

1.言葉の整理をするかのように見せかけて、結局は家賃値上げになるような制度改変で、後期高齢者医療制度のスタートや諸物価の相次ぐ値上げの上、家賃値上げで生活困窮に一層拍車をかける内容になっています。

2.今回の事態は、まだほとんど知られていません。今後、広報をしていきますので、物心両面のご支援・ご協力をお願い致します。

3.神戸市への意見は、下記宛に、その他のご意見・ご感想などは、兵庫県震災復興研究センター宛にお願い致します。

651‐0096 
神戸市中央区雲井通5‐3‐1 サンパル9階
神戸市都市計画総局住宅部住宅管理課
TEL:078-322-5585/FAX:078-322-6113
電子メール
jyutakukanri@office.city.kobe.jp

 

 

 

2008年5月22日

      「神戸市営住宅条例施行規則」の一部改正に対する意見

650-0027
神戸市中央区中町通3-1-16、サンビル201号
TEL 078-371-4593/FAX 078-371-5985
Eメール td02-hrq@kh.rim.or.jp
兵庫県震災復興研究センター
出口 俊一(事務局長)

 

1.神戸市は2008年4月18日、「神戸市営住宅条例施行規則」の一部改正(家賃制度)について意見公募(4月24日?5月23日)を発表した。2007年2月に「神戸市すまい審議会」の答申が出されて1年2か月の検討期間を経て、制度改変が行われようとしているが、その全体像を把握するに足る資料が示されていないことと、5月23日の意見公募の締切まで検討時間がなく、意見をまとめようにもまとめることができない状況に置かれている。「これでは、闇討ちではないか」との意見も出されている。
 すでに、「被災地と被災者を考える懇談会」(4月28日、5月14日)と「阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議」(4月30日)に神戸市住宅管理課の説明がなされたが、肝心の改変内容の情報の出し惜しみがなされている(5月14日現在)。
 意見公募を23日に締め切るのではなく、十分な説明資料を公開した上で再度、公募をすべきである。いまのままでは説明責任が果たされておらず、適正な手続がなされているとは言えない。

2.5月14日の説明で明らかになったことは、現在、7割減免適用の1万2684世帯が、半分の6000世帯になること現在の家賃9500円(1人世帯、年金113万円、7割減免適用世帯)が、3倍の3万円になる世帯が出現することなどである。年金月額10万円弱の高齢世帯の入居者に3倍もの家賃負担を強いることが、「公平性の確保」「困窮概念の明確化」(「すまい審議会」答申)などの言葉で導入されるとしたら、その言葉と改正しようとする制度の間に大きな乖離が生じる。
 また、限られた公表資料を基にしても、以下のようなことが指摘できる。
・今回の改正案は、従来の総収入ランクによる家賃算定方法に対して、世帯構成を考慮した支出額を基準とした点は、より公平的と言える。
・若夫婦で小学生以上がいる世帯は、総じて減免率がアップし、家賃減となる。
・高齢年金世帯(2人世帯) は、60?69歳かつ総収入112万円以下に限って現状維持となる。
・しかし、分母の支出基準額が、低過ぎる生活保護基準額の1.2倍では実態に合わず、低額となり、減免率がほぼ一律に低下する。しかも、減免率70%になるには、生活保護基準の6割以下の総収入世帯に限られ、現実的ではない。
・70歳以上になると最高7割近い値上げとなる。また、110万?206万円では家賃は2倍前後に、206万?230万円なら減免率0?10%となり、3?4割強の値上げとなる。

3. 家賃減免制度については、現行では応能応益家賃制度の延長として機能しているが、本来は、急に収入が減少した場合の緊急避難措置として臨時的・補完的なものとするべきだとしている。
 これは、言葉の整理として、一見正しいように思える。しかし、実際に照らしてみてどうか。家賃減免制度は法律に規定されたものであり、具体的には条例で定められた規定で、特別の事情がある場合に家賃を減免するものである。神戸市の場合は政令月収に応じて10%?70%までの減免率を定めている。つまり、収入の低い層では一定割合の人々は家賃を減免される制度となっているのである。まさに応能応益家賃制度の延長上に位置づけているのであって、いわば、応能応益家賃制度と減免制度を包括して家賃システムとなっており、その下で家賃が支払われている。従って、このシステムを変更するには、家賃の支払い能力を踏まえて、従来通り機能するようにしなければならない。つまり、家賃減免適用を受けてきた世帯を新たに応能応益家賃制度に吸収してこれまでと変わりなく、居住できるように家賃制度を変更することが必要である。そうでなければ、言葉の整理に乗じて、家賃値上げをすることに過ぎなくなる。しかし、応能応益家賃のかなりの部分は法律で規定されているから、一自治体で変更することには無理がある。
 こう考えると、法律で認められている減免制度を活用して家賃を全体として低く抑えている現行制度はそれなりに根拠のあるものであって、言葉の整理をするかのように見せかけて、結局は家賃値上げになるような制度いじりは避けなければならない。不当に減免を受けているものがあるならば、正すべきであるが、現実には安いと言われる公営住宅の家賃さえ払えず、滞納者は多い。

4.後期高齢者医療制度のスタートや諸物価の相次ぐ値上げの上、家賃値上げで生活困窮に拍車をかけることは絶対に避けなければならない。今回の改正案でいくと、「困窮概念の明確化」のもとに新たな「生活困窮」を生み出すことになる。従って、支出基準額算定の根拠である生活保護基準の1.2倍という係数を固定するのではなく、総収入額に応じて、1.5、1.7、2.0などの係数を適用して、激変緩和を図ることが必要である。

5.神戸市は、今回の改変で量的にどのような変化が生じるかなどの肝心の資料を示しておらず、説明責任を果たしていないのであるから、いったん踏み止まる必要がある。拙速な制度改変を強行して後日、「血も涙もない制度改変」と指摘されることのないように、改正に至る手続と内容の両面の再検討を求める。
                                   以上