兵庫県震災復興研究センター

阪神・淡路大震災の直後の大混乱の中で、いち早く被災者の暮らしの復旧、被災地の復興を目標として、日本科学者会議兵庫支部と兵庫県労働運動総合研究所が共同で個人補償の実施を中心内容とした「震災復興のための提言」を1月 29日に国と被災自治体に提出しました。そして、この2つの研究機関を母体に1995年4月22日、兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)が設立されました。

阪神・淡路大震災16年にあたって

 16年前のあの日、1995年1月17日は、気温3.4℃、北東の風4.6mの寒い日でした。今日もあの日と同じように冷え込みのきつい日となりました。心を寒くした記憶は薄れていきます。街に残る被災の傷跡も減りました。阪神・淡路大震災(大震災)は少しずつ遠ざかっていきますが、1月17日は、特別の雰囲気を醸し出す日です。6434人もの人びとが犠牲になられたからかも知れません。

大震災16年と“復興災害”
 2011年1月17日、大震災から16年(5844日)が経ちました。しかし、16年経ったいまもまだ大震災は終わっていません。仮設住宅解消までの5年間、被災者の孤独死は233人、復興公営住宅入居開始からの11年間の孤独死は681人、合わせて914人を数えています。
 大震災の被災地と被災者をはじめ、全国各地の心ある人びとの「不断の努力」(日本国憲法第12条)の賜物として被災者生活再建支援法の制定(1998年)と二度の改正により成果を上げてきている一方、この16年間の復興過程において行政などの不適切な対応により追加的にもたらされる被害が発生することが明らかになってきました。

 神戸空港の破綻
 新長田駅南地区の再開発
 震災障害者
 震災アスベスト被害
 災害弱者のその後の問題

 など数多くの問題です。兵庫県震災復興研究センター(震災研究センター)はそれらを総称して“復興災害”と呼んできました(兵庫県震災復興研究センター編『大震災15年と復興の備え』、2010年4月17日)。
 この間、“終の棲家”(人生最後の住まい)として入居した復興公営住宅での家賃滞納を理由に強制退去させられる事例が急増、2009年4月からはこの事態に追い打ちをかけるような神戸市営住宅の家賃減免改変、その上今後、神戸市では「借上公営住宅」からの“住み替え”称する追い出しが計画されており、入居者に不安が駆り立てられています。新たな“復興災害”がつくり出されようととしています。
 大震災の復興公営住宅として、民間住宅やUR住宅が借り上げられ、多数の被災者が入居していますが、いま、神戸市は契約期間が終わるという理由で、転居(住み替え)を迫っています。被災者の声も聞かないままに、立退きを迫るのは、高齢の被災者の健康や安心を脅かす重大な問題です。
 孤独死が多発する中で、復興公営住宅でのコミュニティが大切ということは、大震災で明らかになった重要な教訓です。震災から16年も経て、住まいの安心が行政の手によって脅かされる事態はなんとしても避けなければなりません。


1・15シンポジウム
“今なぜ、「借上公営住宅」からの追い出しか−安心して住み続けられる復興住宅を−”に130人が集う

 「借上公営住宅」からの追い出しを食い止めようと1月15日、神戸市内でシンポジウムを開きました。8都府県
(東京、新潟、石川、愛知、京都、奈良、大阪、兵庫)から130人が集い、問題のありかと解決の道筋を話し合い
ました。参加いただいた方から、率直なご意見が寄せられました。

阪神の被災地でいま、何が起こっているかがわかった。
○すべての人の人権を守らなければならないと、強く感じた。入居者の方のお話を聞いて、何度も涙があふれそうになりました。被災者の方が、安心して住み続けられるように何とか解決してほしい。
○首長の政治家としてのリーダーシップの有無が明らかになりました。16年経って、原点に戻って考えることと、大きく立場や意見を異なることになった者同士が議論することも重要になって気がします。吉本隆明が指摘した「小さなことがらから思考を組み立て直す」ことも大切に思えます。

 当日、提案した「要求・政策の方向」と「“復興災害”を食い止める取り組み」は、以下の通りです。

要求・政策の方向−機械的住み替え策を見直して、居住権の保障を−

 2010年12月22日(水)、宝塚市中川智子市長が、12月28日(火)には兵庫県井戸敏三知事が、借上住宅の買い取り検討を相次いで表明しました。井戸知事は2011年1月7日(金)の定例記者会見でも重ねて買い取りの検討を表明しました。宝塚の中川市長は、「金銭面で入居者の不安は高まっている。市の方針を早めに伝えて安心させたいと考えた」(「神戸新聞」2010年12月23日付)と記者会見で述べています。

 「クリスマスプレゼントとお年玉をもらったようだ」と、ある被災者と支援者の弁です。このような首長のメッセージが、重要な 「心のケア」になります。取り組み始めて7か月経った2010 年の年の瀬、「借上公営住宅」問題の情勢は大きく動きました。

 神戸市の「借上公営住宅機械的住み替え策は、手続面でも内容面でも問題があり、改めて入居者の意向を聞き、その意向を尊重することに立ち戻らなければなりません。「画期的」とか「広めていくこと」が期待された「借上方式」を継続するためには、各オーナーとの間で新たな契約を交わすことも視野に入れ、再検討することです。国土交通省総合住宅整備課の担当者は2010年12月9日(木)、問い合わせに対して「新たな契約を交わしていただいたら可能です」との回答をしました。期限延長・契約更新は、法制度上、可能であること。また、民間オーナーの圧倒的多数は、期限延長を求めていること。唯一残るのは、神戸市長の政治決断です。いまからでも遅くはありません。被災者の居住権を保障するには、いまここでいったん立ち止まって、機械的住み替え策の見直し・再検討を行い、入居者の意向を尊重することです。


“復興災害”を食い止める取り組み

 このまま機械的住み替え策が強行されていけば、大震災から16年も経って被災自治体の施策によって新たに被災者に困難―大震災から四度目の住み替え―を強いることになります。これでは、大震災からの復興の過程で発生させる“復興災害”と言わざるを得ません。自然災害は食い止めることはできませんが、復興災害は、人間社会の成すことですから、人びとの力で食い止めることができます。改めて、被災地と被災者の「不断の努力」により「大震災被災者の最後の一人まで救済を!」現実のものにしていかなければなりません。

 そこで、1月15日のシンポジウムの「主催+協賛団体」(22団体)が周りに賛同の輪を広げ、それぞれの知恵と力を発揮するとともに持ち味を生かし、相互に相談しながら具体的な取り組みをすすめていきます。

 以下に、考えられる具体的取り組みを列記しておきます。

(1)引き続き、入居者へのビラ配布をすすめます。
 12月18日(土)から自発的に増し刷り&配布が開始され、現在の状況は、次の通りです。  
 東灘区(120部)灘区(300部)HAT神戸脇の浜(中央区)+フレール鷹取(1000部以上)長田区+須磨区(2000部)北区(200部以上)/3620部(県営住宅を含む)以上配布されました。あと、中央区(320部)と兵庫区(1030部)で合計(1350部)が残っています。
(2)入居者支援を目的にした各種懇談会やシンポジウムを開催します。
(3)神戸市会への再度の「陳情書」を提出するとともに、口頭陳述を行います。
2月議会は、2月中旬から1か月余り開かれます。
(4)神戸市長への“公開討論会”の申し入れを行います。
(5)神戸市の第2クール(2011年春以降の予定)の説明会を傍聴します。
(6)宝塚市兵庫県の方策を支持し・広める取り組みとともに西宮、尼崎、伊丹の各市長と市議会への働きかけを行います。
(7)肝心な情報の公開を促進します。

 当日の「基調報告」 (48ページ)など資料が必要な方には、ご連絡下さい。1部500円+送料80円です。

【連絡先】
兵庫県震災復興研究センター
650-0027
神戸市中央区中町通3-1-16、サンビル201号
電 話:078-371-4593
ファクス:078-371-5985
Eメール:td02-hrq@kh.rim.or.jp
ホームページ:http://www.shinsaiken.jp/